家を借りる時に火災保険は不動産屋さんの指定保険に入らないとダメなの?
まだ寒い日もありますが少しずつ暖かくもなってきました今日この頃です。
先日ある方とお話していて「火災保険は不動産屋さんの指定されたものに入らなければダメなんですか?」と聞かれたのでどこで入るかは契約者のご自由ですよとお答えしました。
私自身まだ何も知らない20歳そこそこの時の話です。初めて自分の住む部屋の賃貸住宅を契約する際に仲介の不動産屋さんに火災保険には必ず入ってくださいと言われました。当時の私の家財を全て足したってせいぜい20~30万円程度で全て燃えたところで大した損害ではないから入るつもりはなかったのですが入らないと貸せないと言われました。
自分の家財に保険をかけるかけないは自分が決めることであってなんでそんなこと言われなければならないのかとその時は不思議に思ったのですが、教えてもらったのは自分が火事を出してしまった場合の大家さんに対する「借家人賠償責任補償」、そして階下への水漏れなど周り近所に迷惑をかけた場合の「個人賠償責任補償」の補償が必要だったのです。この2つの補償は基本的には単品では契約できないので土台の補償として家財保険が必要になり、その上に特約として乗っけるような保険の形になります。
これは自分が保険に携わるようになってから知ったのですが、建物そのものは大家さんが当然保険に入るとしても自分が借りている部屋自体は民法415条の債務不履行責任に基づいて大家さんに対して原状回復義務が発生するのでやはり保険が必要だったのです。
その時はそのまま不動産屋さんの指定の火災保険に入りました。
それから数年後、私は不動産業界に入り、損害保険の募集人資格も取得します。そこで改めて火災保険の重要性を知りました。2つの賠償責任が大事なのはその通りなのですが日本には明治時代に作られた「失火の責任に関する法律」という法律があります。これはお隣が出した火事が原因で自分の部屋まで火事になってしまった場合、もしくは火事にならなくても消火活動で家財が水浸しになり使い物にならなくった場合、火を出した張本人のお隣さんに請求できないのです。たとえ原因が他人だとしても自分の身は自分で守れという訳です。これは木造建築が多かった明治時代、住宅密集地でひとたび火事が起こると瞬く間に燃え広がってしまい、それを火元の人間だけに責任を負わせるのはあまりにも酷なのでそういったルールができたとのことです。
仮に家財の損害は大したことなくとも、住めないくらいの状態になってしまえば復旧させるのに相当の時間がかかります。その間自分はどこか別の場所に住まなければなりません。そういった費用も考えるとやっぱり火災保険は大事ですね。火災保険と言っていますが、今は住宅の総合保険となっていますので台風や土砂崩れ、水災、地震(他と少し補償が異なりますが)、なども補償されることになっています。
その後私は保険業界に身を投じ、さらに保険について学んでいくことになります。
さて、ここからが本題ですが、賃貸で住宅を借りる場合、不動産屋さんの諸費用見積もりに不動産屋さんが扱っている保険会社の火災保険料が最初から組み込まれていたりもします。きちとしたところでは事前にどうしますかと聞いてくれたりすると思いますが。よくわからなければそういうものかと思い、そのままの流れで契約をしてしまいますよね。この辺りどうなのでしょうか。
まず、大家さん、仲介の不動産屋さんが火災保険に入らない人には部屋を貸さないよというのは良いのでしょうか。民法521条、522条には「契約自由の原則」というのがあります。家を借りる人がどこに住もうが自由なのに対し、家を貸す人もどんな人に貸すかは自由ですし、貸すにあたってどんな条件をつけるかも基本的には自由です。公序良俗に反しない、もしくは他の優先する法律に反しない限りは。火災保険に入らない人ときちんと火災保険に入って賠償責任の資力が担保できている人であれば大家さんは当然後者に貸すことになりますよね。なので賃貸借契約の条件にあらかじめ火災保険に入って借家人賠償責任の特約を付けてくださいねと入れ込んでおきます。これは貸主にとって必要性、合理性が認められますから入らない人には貸さないとしても問題はないのです。
一方、借りる人からすると「わかりました、それはそうですね」と火災保険に入ることは了承したとして、「契約する保険会社くらい自分で選ばせて」となることもあるかもしれません。だって借主だって契約自由の原則があるのですからどこの保険会社と契約するかは本来自由なのですからね。
そして不動産会社が保険代理店となって保険会社を指定することのどこが問題になる可能性があるかというと保険業法300条に「圧力募集の禁止」という項目があります。これはある力関係が上の保険代理店が取引先に対してこの保険に入らなければ今後お宅との取引はしませんというように、保険と別の条件とを抱き合わせて無言の圧力をかけて契約させるようなことを禁止している法律です。
例えば見えない圧力で会社の従業員に社長の親族が経営する保険代理店の保険に加入させることや、金融機関が自社グループ代理店の保険に入らないと今後の融資はしませんよと融資先に見えない圧力で迫ることなどです。会社規模や取引の力関係がはっきりしていればより圧力募集と取られてしまいます。
また、独占禁止法2条9項5項にある「優越的地位の濫用」にあたる可能性もあります。力関係が対等であれば良いのですが、通常個人で家を借りる場合、借主の個人が弱い立場になることが多いと思います。
ですのでもし自分で保険会社を選びたければその旨をはっきり伝えれば良いと思います。
ただ、私もかつて不動産の仕事をしていたので不動産屋さんの立場もわかります。火災保険の手数料が目的というよりも自分のところで入ってもらった火災保険であれば、何か保険事故が発生した時に対応が取りやすいですし、保険契約の更新管理も賃貸借契約の更新と同時に行うことになるので加入漏れもありません。入居者としてもその方がメリットがある場合もあるのです。一方のデメリットとしてはパック商品になってしまっているので保険料が多少高い場合があるかもしれないですし、不動産屋さんはそもそも保険のプロではないので担当者によって知識レベルにバラつきがあったりもします。
その辺を分かった上で不動産屋さんで契約するのも良し、信頼できる保険代理店で契約するも良しです。
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